朝、友人に部屋の鍵を渡して、海へ向かった。チョクシャニッコー対策をしていなかったのでわりと日に灼けて夜帰宅。友人が隠していった鍵を拾い解錠。一日中砂浜を歩いていたので、全身の筋肉がはっており、珍しく湯舟をはって、おまけに入浴剤をいれる。日に灼けた腕や首が湯にしみる。いいじゃねえの、夏ジャネエノと思いながら、ふと洗面台に目を向けると、異変に気付いた。
異変とは、歯を磨く時に口をゆすぐため、僕は小鉢を使っているのだが、その小鉢へ置いてある歯ブラシが妙なのである。いつもは柄の部分を小鉢の底につくように置いているのだが、その日に限って、歯ブラシが、小鉢のヘリとヘリに乗っかって、橋のようになっている。
異変に気付くのと、これがおそらく友人の仕業であることに間違い無いと考えが至ったのはほぼ同時であったであろうか。僕はゴム手袋をはめ、恐る恐る歯ブラシを持つと、水をはったバケツの中に入れた。次に大型のヘビの飼育用に安く売っていた白いマウスをバケツの中へ。60秒ほど様子を見た。するとどうだろう、マウスは水の中で死んでしまったのだ。やはりである。歯ブラシの毛先に毒が塗ってあったのだ……。
僕の幸運は、毒を塗る所までは首尾良くいった暗殺者氏が最後に歯ブラシの置方を誤ってしまった点だ。異変に気付いた僕は、無事命をとりとめたのであった。友人の歯ブラシに毒を塗る根性。一体世の中はどこまで乱れていくのか。
毒が塗られた歯ブラシは、結構使い込んでいて毛が開いていたので、いい機会だと思い、新しい歯ブラシを購入した。毒歯ブラシは窓から手を伸ばし大家さんの家の庭に埋めた。秋までには、恐ろしい友人の執念が形となって、マンドラゴラの芽がふくであろう。